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執筆者の写真NATSUMI CHIDA

フルーツ牛乳

更新日:2018年9月16日


仕事が17時に終わったので、

17時10分には制服から着替えて車に飛び乗った。

(まだ、会社員時代の中のわたし。会社員っぽい)


夕方の帰宅時は、夕暮れ空のグラデーションを追って、こころを研ぎ澄ませながら家を目指す。なんだかよくわからないですけれど、こころの感度を上げている状態って、きっと現世のもので例えるならば水まんじゅう。


途中、遠くの山がしあわせ色のやさしいオレンジピンクとなっているのが見えて、少し遠回りをして帰ることにした。

しあわせ色の上には雲、その上からはまた黄色の空が拓け、そこから上へ上へとうすいうすい微かな緑色、ハッとする水色へと、嘘みたいにドラマチックを完成させていた。


車を畦道に停め、外へ出ると、綺麗な虫たちの声がした。秋なのだなあ、と、分かった。


夕陽の残した光の粒たちもいっしょに、すこしさみしい気配を漂わせてくれていたので、ちょっとホッとした。どうもありがとう。


しあわせ色は、どんどん濃くなって、しあわせ色ではなくなっていったけど、熱烈盲目的に自分勝手なオレンジピンク色も、すごく綺麗だった。(恋愛しているときのたましいの色だなあと思いました)


トンボたちが、スイスイ空を横切って、みんな自由に泳ぐ姿を見ていたら、帰ってもいい気持ちになったので、車に戻ることにした。


少し運転を始めると、小学生の頃以来、会ったことのなかった年上のお姉さんが、旦那さんと赤ちゃんを連れて散歩をしているのが見えた。時間の経過を想像すると当たり前に思える出来事が、ほんとうとして目の前に現れると、世の中の仕組みがさらに摩訶不思議に思える。


家の前の林の向こう側も、知らない間に、大きなソーラーパネルの密集地になっていて、その違和感は、もはや大変こわいものだった。逃げ帰った。



玄関では、いつものように、可愛いいちご(ホワイトテリアとシーズーのいいとこどりをしたミックス犬。雑種ともいう。さとは鉄板のギャグのようにこれを言う。)がめちゃめちゃ笑顔でお出迎えしてくれた。ドタバタと、玄関とリビングを行ったり来たり。人間だったらば、帰ってきた!祭りとか、お帰り!祭りとか、もう、お祭りなんだなあと思う。めでたい。





不意に、せっかくの18時前なので、温泉に行くことを思いついた。

タオルや着替えを抱えて、出発。いちごが、今度はあわてふためきながら、ドタバタとしていた。笑顔は全くなかった。(ごめんね、と、いつものように思った。)




お気に入りの温泉。たったの300円で、身体もこころもタマシイも、つやつやぴかぴかほっかほか。数えてみると、9月に入って、もう4回目だった。大お気に入りと呼べる。



30分の運転。わたしはこの時間がとてもすきだ。今日も、RADWIMPSのアルバムを口ずさみながら。

このアルバムも、タクマくんと盛岡を散歩したときに調達した。



道のりの間には、いい田んぼの景色がある。それも楽しみのひとつなのだけれど、今宵は三日月がロマンチックに光っていた。

また少し車を停めて、畦道に立った。

今日のあの月は、どんな気分でいても、ロマンチックと表現する月だ。ぼんやり淡いクリーム色の影。時折レインボーの三日月が重なる錯覚。いい夜だなあ、と、思った。




土曜日だから、温泉の駐車場は、いつもより車がたくさんあった。

趣も含め、何もかもがひっそりとした佇まいが程よい外観。

夜に来たのは久しぶりだったから、灯籠や看板の明るさに、じんとする。



脱衣所では、同世代の子が温泉から出てきたところで、わたしはなんとなく慌ててしまい、へんな順序で服を脱いだ。(今思えば、わたしなりのフェアの体現。でもそれって不必要で、無意味だったなあ、と、笑えちゃう。)



扉を開けると、5、6人のおばあちゃま方がいらっしゃった。みんな各々に癒しの時間を過ごしていて、その空気にさっそく癒される。



シャワースペースへ行き、洗顔から始めた。目を長い時間閉じていると、夢を見ているような感覚で、考えごとを始めてしまう。楽しい思い出を眺めたり、聞いてほしい話を思ったり、なんだろう。もうずっとまとまらない。あれ、これって夢なのだっけ、と、目を開けて、苦い泡が入り痛い。シャワーを浴びながら、ああ、全部本当のことなんだなあ、って、ぽっかりとする。


鏡に映る自分を見た。




鏡越しで温泉に浸かるおばあちゃま方も見えた。みんなで人魚たちみたいだった。


お湯に浸かったり、縁に腰掛けたり、

大小の岩も、なんか全部、人魚の入江みたいだった。

(小さい頃にみたピーターパンの景色を思い出した。遥か遠くの記憶なのに)



わたしって、わたしなんだなあと、

落ち込むような、それから嬉しいような気にもなった。


つやつやぴかぴかほっかほかの準備に、すきなだけ時間を費やして、ちゃんとこの贅沢も噛み締めた。


わたしが温泉に入るころには、お一人の人魚だけとなっていた。

そして、割とおかまいなしに、優雅に普通に泳いでいて、戸惑いました。


大人でも温泉で泳いじゃうんだ〜、と、思ったら、少し元気にもなって、ひっそり隅っこであたたかさに浸かりながら、しあわせ色を思い出したりもした。



今日の理想的なわたしが、完成。



お祝いとして、フルーツ牛乳も買って飲んだ。しかも小岩井農場のやつです。

フルーツ牛乳は、中野ブロードウェイの思い出でもある。






ひとつひとつの瞬間に、大切な人との時間って、宿っている。

わたしはそれを、より見つめられるようになったよ。



より身軽になって、大切な人たちへ、どこまでも会いに行く生き方をやります。


幸先の良さしかないです









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