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ことしのなつ

更新日:2022年3月3日






おばあちゃんとおじいちゃんが、別々にデイサービスから帰宅するという連絡をもらい、慌てて5時前に着くよう家へ向かう。


到着すると、おばあちゃんがちょうどケアマネージャーさんに送られてきたところだった。


「なつこ〜」と、喜んで車から降りてきたおばあちゃん。手を繋いで、ケアマネさんの車が見えなくなるまで、手を振る。


おじいちゃんは、病院へ寄ってから、伯母さんと帰宅するとのことだった。

おじいちゃんがいないことを不思議がりながらも、「おばあちゃん、忘れっぽくなってしまったから」と、忘れやすくなったことは分かりながら、笑顔で、控えめに、質問を繰り返すおばあちゃん。

いっしょに夕ご飯を準備。


一週間以内にとこまめに会いに来るようにはしているけれど、これまでよりも、目の前にあるものや、ものの名前も分からなくなっているようだった。言葉だけで伝えなくてはならないときには、よりいっそうひとつひとつ丁寧に伝える必要があり、できたことにも盛大に褒めて喜ぶリアクションをしながら、一緒に作業を進める。おばあちゃん自身が笑顔なのだから、わたしもおんなじでいたい。


夕ご飯には、親子丼を作った。


その頃には、伯母さんとおじいちゃんも帰宅。

この数日の間に、おじいちゃんの行動が少し不安定となったと聞かされていたため、その大変さで伯母さんは疲れきっているようだった。

伯母さんには茶の間で休んでいてもらい、おじいちゃんとおばあちゃんと3人でご飯を食べた。


夕方、バナナボートを半分こしていたので、いつもよりも慎ましくご馳走様をしたおばあちゃん。

おじいちゃんは、「小さなスプーンがいい」とこだわって、デザート用のスプーンで勢いよく親子丼を平らげてくれた。

二人とも、いつも、とても美味しいと言ってくれながらご飯を食べてくれるので、わたしはその姿に感謝も感動もしています。

こちらこそです。どうもありがとうね。


ゆっくりとごはんを食べ終え、薬を飲む頃には、伯母さんも来て、賑やかな台所となった。

食器を洗いながら、最近の2人の様子を教えてもらった。

伯母さんの限界が近いことも分かりながら、これまでも何度も何度も想像していたこれからを思い、この時間、この瞬間も、どれも特別なものなのだよなあ、と、あらためて心の中で滲む気持ちがあった。


食器を洗い終え、伯母さんには夕ご飯を食べてもらいながら、2人を茶の間へとエスコートする。

おじいちゃんの手がいつもよりつめたかった。

8月なのに、今日は、朝から寒かったからかな。


椅子に座ってもらった頃には、7時半近くになっていたため、伯母さんには時間を心配され、帰るよう案じてもらった。


明日から一週間、施設へ行くおじいちゃんと、そのことを分かっていないおばあちゃんのことをおもって、なんだか、わたしは離れがたい気持ちでいっぱいだった。


伯母さんとおばあちゃんで寝支度を始めるとのことだったので、おじいちゃんにいつものように握手をし、呼びかけながら、帰ることを伝えた。


「泊まっていったらいいよ。せっかくだから、帰るなんて言わないで。泊まっていってよ。僕もここで、もっとこの場所を開拓していくから、楽に楽しく暮らせるよう頑張る。(夏美も)頑張ってね。お互い頑張って。また家事をここでやるようにしてくれるといいなあ。」と、笑顔で話してくれるおじいちゃん。今までよりも、少しずつ、「帰らないでほしいなあ」など、わがままを言うようになっている。思慮深いところも大好きだったけれど、今のおじいちゃんも大好きとおもう。


お家で生活を一緒に頑張ろうよ、というような意味の話をしてくれたのは、初めてのことだったので、だれかと、(おばあちゃんと?)、わたしを勘違いしているのかな、とも思った。



たしかに、おじいちゃんのぽはんは進行をしていて、わたし自身も、もしかしたら全てを分かりながら話を聞くことができていないのかもしれないけれど、

おじいちゃん、どんなにいろいろなことが緩やかになっていっても、必ず帰り際、思いやりの言葉と励ましの言葉をくれる。


「僕も頑張るからね。いいようにね。たのしくね。」





中学生の頃、東京へ進学することを決めたときにも、おじいちゃんがかけてくれた言葉は、「いい友達をたくさんもってね。」だった。

手をにぎってくれながら、昨日も、「いい友達をもって、困ったときには助けてもらって、助けて、そうやっていけば大丈夫だよ。」と話し終え、満足そうに笑っていた。



伯母さんの介護の大変さを思い、何がお互いに大事なのか、みんなで分かっている。(おじいちゃんも、おばあちゃんも、ぽはんとなる以前の言葉が、今、役立てるようにと、たくさんたくさん思い出される。)


それでも、やっぱり、おじいちゃんのことを想って、すこし、さみしい気持ちがつよくなってしまった。




おじいちゃんとおばあちゃんと、ハイタッチをし、笑顔でまたねと、いつもどおりのさよならをした。


真っ暗な夜道。一人暮らしのアパートまでは20分。小雨がポツポツ降ってきて、窓が濡れていくのを眺めていたら、小さいなみだがわたしもとまらなくなった。



今できることを、ひとつひとつ、大事にしたい。

わたしが今やりたい一番のことなのだから。

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