へんなはなしだけど、今日の検査のこと、すこし楽しみにしていた。読みたかった本を、ゆっくり待ち合い室で読めるだろうと思っていたから。
「造影剤を使って検査します。」と言われていたCT検査。待ち合い室での時間は、想像していたよりも短く、血圧の計測に2回失敗したから、あっという間に呼ばれてしまった。失敗した血圧の結果レシートをしおりに、本を閉じた。
放射線科で受付。大きな扉の前で待つ。さっきのにぎやかな待ち合い室とは打って変わって、静かでひんやりとした薄暗い廊下。遠くの窓から床に映っている外の光が揺れていてきれいだった。
検査室に呼ばれ、簡単な説明を受ける。着替えをし、宇宙飛行士の訓練用設備みたいな機械へと近づく。技師さんからは検査にかかる全体的な時間の説明はとくになかったので、バリウム検査やMRIのように、きっと長くかかるだろうなあ、と思っていた。これまでやったことのある宇宙飛行士訓練用設備での検査が、どれも不思議体験として面白かった印象だったので、今回の検査にも前向きなわたしであった。
技師さんと看護婦さんに囲まれ、まずはノーマルな撮影をした。稼働するベットに横たわり、ばんざいをし、胸下から骨盤までを撮影するため、からだがゆっくりと機械に出たり入ったりする。なんだか未来のお布団のようだなあ、などと思っていたりした。
続いて造影剤を使っての撮影。
バリウムみたいに飲むものだと思っていた造影剤は、注射でダイレクトに血管へ入れるものということだった。寝そべったままで天井を見つめながら、左腕は脈を測るためのバンドで固定された状態で、不意に伝えられてしまったので、ちょっと動揺した。
思わず「飲むんじゃないんですね〜?」と会話のキャッチボールをスタートさせていた。技師さんや看護婦さんが親切にボールを投げ返してくださっている隙に、小さい覚悟を決めた。注射って全然得意でない。不意に謎の薬剤を注入することになったのに、わりと耐えることのできるわたしだったみたいでよかった。ほんとうに。
「造影剤が身体に入ってくると、身体の柔らかい部分が熱く感じます。」との説明を受け、いざ注入。(柔らかい部分?)と思っていた2〜30秒後には、ほんとうに身体の柔らかい部分が熱くなっていった。最初に違和感を感じたのはおしりだった。
へんなはなし、わたしは何かの副作用でおもらしをしちゃったかも、、と、どきりとした。
そのどきりも、左腕で脈拍を測られているから、どんなリアクションをするのかも観察されていたりして。これってもはや実験なのでは、、。だけども、平常心、平常心。平常心だよー。などと、おもらししちゃったかもしれないことを、どうにか脈拍ごとクールに装って、「こちらも副作用ですよね?☆キラン」みたいに振る舞えないかなあ、と考えていたら、また機械へと入っていた。
最後に熱さを感じたのは掌だった。
身体の柔らかい部分の熱さは、全身に広がり終えると、あっという間に引いて行った。終始気が気でなかったおしりまわりの違和感も無くなっていて、これが造影剤というものなのか、と、いろんな気持ちでそわそわした。今後また造影剤に出会うことがあったときの自分のために、今日のことは忘れないでいよう、と思った。
検査は想像していた時間より短いものだった。ただの立ちくらみなのか、副作用でのめまいなのか、ぽはんとする感覚を残しつつ、そんなこんなで今回の検査は終わった。
「今日はたくさん水分を取って、造影剤をなるべく早く外にだしてくださいね。」と説明を受けて、帰路へ。
真面目だから、駐車場に戻るまでに、伊右衛門を三度もごくりとやった。ラベルレスのやつ。真面目だよなあ。
天気が良くて、病院の敷地内の梅の木々も、遠くでさりげなく咲いているのが分かる。桜の木々は枝先がどんどん赤らんでいて、春の近さを実感させてくれる。病院での出来事ばかりが非現実的で、なんの実感もなかった。不思議体験。
ああ、美味しい焼きたてのパンが食べたいな。
それと、どうか無事であってね。わたしの身体。
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